夏の日の2014

彼女との出会いは暑い夏の日の事だった。

「あの人捕まえてください!」 とある女性が素っ頓狂な声を上げて、めったに聞かない、いや、できる事なら一生耳にしたくないようなお巡りさんの「待て―!」という声とともに逃げる一人の女。

たまたま近くを通ったものだから人助けだと思い、逃げる女の道を塞いだ。坊や、お兄さんは今悪い人を捕まえるのに協力してるんだ、ヒーローだよ。と言わんばかりにだ。

ふと横を見ると同じように仁王立ちで道を塞いでいる女性。残念、そこは公衆電話の前だ。逃げるときに通りっこない。

結局、件の逃走劇は、最初に叫び声をあげた女の勘違いで幕を下ろした。どうして大声をあげる人間は失敗を犯すのだろうか。ただこの女の場合は後で「勘違いでした、ごめんなさい」と言うだけ白井よりはマシなのだろう。

 

さて、昼飯はさっぱり酢の効いた冷麺でも食べようと帰ろうとしたところ、例の仁王立ちの女性が話しかけてきた。

年の頃は22、3であろうか。美人というよりも愛嬌のある可愛らしい顔だ。

「暑いですよね」彼女はそう言った。

 

この非日常的な状況の中で突然日常的な世間話を放り込まれ、突然インハイに直球を投げ込まれたバッターのように面食らった。

今日は旅行代理店に来るためにこのショッピングセンターに来たと話すと、途端に笑顔になり、「旅行が好きなのですか?」と。

ええ、よく北海道に行きます。

「そうなんですか、じゃあ一緒に観光地探しますか。ほら、あそこに本屋さんあるから」

と、笑いながら彼女はそう言った。どれだけ自分のペースで進めるんだろう。

そうですね、と一緒に北海道のガイドブックを読むこととなった。全く、僕の頭の中の冷麺はとっくに延び切ってしまっている事に彼女は気づいているのだろうか。

そんな僕に構うことなく、彼女は楽しそうにガイドブックを読んでいる。

 

ひとしきり読み終わった後に、どちらからか旅ですか?と聞いた。札幌からだそうだ。奇遇ですね。などという女の子を口説くときにしか使わないようなセリフを珍しく吐いた。

 

しかし、ここは一体どこなのだろうか。

 

彼女と連絡先を交換し、藤本美貴でも歌わない程度に浮かれモードになっている時にふと目が覚めた。とてつもなく寝坊している。ああ、ドラえもんの顔の色が青くなった時はこんな感じだったのだろうと22世紀に思いをはせた。

 

時間にしておよそ30分程度であろうか、目下、今夏一番の思い出となった。。

 

昨日から札幌のデートスポットを検索し続けて疲れたのだろう…